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「薬の減らし方」について

[2026.05.17]

はじめに

今回は、日々の診療で患者さんから非常によくご相談いただく「お薬の数」について、詳しくお話ししたいと思います。

テーマはずばり、「薬の減らし方」についてです。

皆さんは、日々飲むお薬に対してどのようなイメージをお持ちでしょうか。診察室では、患者さんから以下のようなお悩みをよく耳にします。

「お薬って、どうしても飲みたくないんです」

「一度飲み始めたら、一生飲み続けなくてはならないのでしょうか?」

「気づいたら、どんどん飲む薬の種類が増やされてしまって不安です」

このようなお悩みをお持ちの方は、決してあなただけではありません。多くの方が、毎日たくさんのお薬を管理して飲むことに大きな負担を感じ、「できれば減らしたい」と願っています。今回は、薬が増えてしまう背景やその裏に潜むリスク、そして安全に薬を減らしていくための具体的なステップについて、腎臓専門医の視点からわかりやすく解説いたします。

ポリファーマシーという概念をしっていますか?

皆さんは、「ポリファーマシー」という言葉を聞いたことがありますか?

「ポリ(Poly)」は「複数の、多くの」という意味で、「ファーマシー(Pharmacy)」は「調剤、薬局」を意味します。直訳すると「多剤服用」となりますが、医療の現場では単に「飲んでいる薬の数が多いこと」だけを指すのではありません。

薬の数が増えることによって、薬同士の悪い飲み合わせ(相互作用)が起きたり、副作用が出やすくなったり、飲むべき薬を飲み間違えたりと、「患者さんにとって有害な事象が起きている状態」のことをポリファーマシーと呼びます。一般的には5〜6種類以上の薬を飲んでいると、副作用のリスクが急激に高まると言われています。

どうしても腎不全がすすむと薬がふえてしまう

特に当院のような腎臓内科に通われている患者さんの場合、「どうしても薬が増えやすい」という切実な背景があります。

腎臓は、体内の老廃物を尿として排泄したり、水分やミネラルのバランスを整えたり、血圧をコントロールしたり、さらには血液を作るホルモンを分泌したりする「代謝の要」となる臓器です。腎不全が進行し、この多機能な臓器の働きが障害されてくると、本来腎臓がやってくれていた無数の仕事を「薬」で補わなければならなくなります。

具体的には、腎機能の低下に伴って次のような症状や合併症が現れ、それぞれに対処するための薬が追加されていきます。

  • 浮腫(むくみ): 体に溜まった余分な水分を出すための「利尿薬」

  • アシドーシス(血液が酸性に傾く): 血液のバランスを中和するための「重炭酸」

  • 高尿酸血症: 痛風などを防ぎ、腎臓への負担を減らす「尿酸産生阻害薬」

  • 高血圧: 腎臓を守り、全身の血管の負担を減らすための「降圧薬」

  • 蛋白尿(たんぱく尿): 尿たんぱくを減らし腎機能を保護する「ARB」や「SGLT-2阻害薬」

  • 心不全: 心臓の負担を和らげる「βブロッカー」

  • 不整脈: 血栓(血の塊)ができるのを防ぐ「抗凝固薬」

このように、大切な腎臓を守り、新たな合併症を防ぐために治療を重ねていくと、症状が増えるごとにどんどん薬が増えていってしまうというジレンマがあるのです。

ポリファーマシーのリスク

では、薬が増え続けると具体的にどのような危険があるのでしょうか。

まず、ポリファーマシーの状態にある患者さんでは、「薬を増やしていっても、期待される効果が十分に出ない可能性」があります。

その原因として、薬の数が多すぎて飲み忘れや自己判断での中断が増えること(服薬アドヒアランスの低下)、他の重篤な合併症の存在などが挙げられます。

さらに、効果が出ないだけでなく、副作用や薬物相互作用の増加により、かえって有害な事象(体調不良や新たな病気)を引き起こすリスクが高まります。

ここで特に気をつけたいのが「処方カスケード(滝)」と呼ばれる悪循環です。例えば、「痛み止めを飲んで胃が荒れたから胃薬が追加され、その胃薬の副作用で便秘になったから下剤が追加され、下剤が効きすぎてふらつくからまた別の薬が…」といったように、薬の副作用を新たな病気と勘違いして、雪だるま式に薬が増えてしまう現象です。

高齢者のポリファーマシーを考える際には、医療者も患者さんも、いま一度立ち止まって考える必要があります。「たくさんの薬を使ってでも、病気の数値を下げる治療を優先すべきか?」それとも、「治療効果は少し弱くなる可能性があっても、有害事象が起きる確率を減らし、安全な生活を送るという選択肢をとるべきか?」という視点です。

例えば、「転倒(転んでしまうこと)」は高齢者にとって骨折や寝たきりに直結する重大な事故です。一度転倒した方は再発しやすいため、ふらつきの原因となる薬を減らし、安全を優先する対策が非常に重要になります。

PIM(潜在的に不適切な薬剤)とは

ちょっと英語でわかりにくいかもしれませんが、上の図は薬の量が増えることによるリスクを検証した論文です。薬の量(Number of drugs)が増えるとその恩恵(Benefit)よりも害(Harm)が増えるということを示した図になります。量が増えれば増えるほど有害事象のほうが指数関数的にふえているということがわかると思います。

ポリファーマシーを見直す上で、PIM(Potentially Inappropriate Medication:潜在的に不適切な薬剤)という概念があります。これは、「特に高齢者において、期待される効果よりも副作用などのリスクのほうが上回る可能性がある薬」のことです。

  • 睡眠薬・抗不安薬: ふらつき、転倒、日中の眠気、認知機能の低下を招きやすい。

  • NSAIDs(一般的な痛み止め・解熱鎮痛薬): 腎臓の機能を急激に悪化させたり、胃腸の出血を引き起こしたりするリスクがある。

  • 一部の血糖降下薬: 効きすぎて「低血糖」を起こし、意識障害や転倒の原因になる。

これらの薬は必要な場面もありますが、漫然と使い続けることは非常に危険です。必要なときは継続することもありますが、できれば限られた期間で限定的に最小量でという考え方で処方していきます。

薬を減らすにはどうしたらよいか

では、実際に薬を減らしたいと思ったとき、ご自身ではどう行動すればよいのでしょうか。以下の4つのステップを実践してみてください。

1. お薬手帳を1冊に一元化する

複数の病院やクリニックに通っていると、別々の医師から同じような効果の薬が重複して処方されたり、飲み合わせの悪い薬が出されたりする危険があります。お薬手帳は病院ごとに分けず、必ず「1冊」にまとめ、受診の際には毎回提示してください。

2. かかりつけ医や薬剤師に相談する

「薬を減らしたい」という希望を、まずは率直にかかりつけ医や薬局の薬剤師に伝えてください。絶対にやってはいけないのは「自己判断で勝手に薬を飲むのをやめること」です。急にやめると血圧が跳ね上がったり、病状が急激に悪化したりする危険な薬もあります。専門家と一緒に、優先順位を決めて安全に減らしていくことが大切です。

3. 市販薬やサプリメントも含めてすべて伝える

病院の薬だけでなく、ドラッグストアで買った市販薬、健康食品、サプリメントなども、すべて医師や薬剤師に伝えてください。手元にある飲んでいるもの(飲み残しを含む)を、すべて一つの袋に入れて受診時に持参していただくのも素晴らしい方法です。

4. 気になる体調の変化を記録して伝える

「最近ふらつく」「便秘がひどい」「食欲がない」といった症状は、年のせいではなく薬の副作用である可能性があります。些細な変化でも遠慮なく医師に伝えてください。

当院の試み

地域に根ざした医療機関として、そして腎臓内科として、当院では患者さんのポリファーマシーを防ぎ、薬の負担を減らすために以下のような積極的な試みを行っています。

1. 漫然投与を防ぎ、常に必要・不要を模索する

「前回と同じ薬を出しておきますね」という漫然とした処方は行いません。毎回の診察で症状や検査数値をしっかり確認し、「この薬はもう減らせるのではないか」と常に模索しご提案します。

2. 合剤(ごうざい)を提案する

複数の薬を1つの錠剤にまとめた「合剤」を活用します。2種類の血圧の薬を1つの合剤に変更するだけでも、飲む錠数を物理的に減らすことができます。

3. 食生活の是正による薬の減量

当院には管理栄養士が在籍しており、食事の面からも治療を強力にサポートします。例えば、減塩を徹底することで血圧が下がり降圧薬を減らせる可能性があります。また、日々の食事からのカリウム摂取を適切にコントロールできれば、高カリウム血症の治療薬(ビルタッサなどのカリウム吸着薬)を減らせるかもしれません。食事内容を見直すことで便秘が解消し、下剤が不要になることも多くあります。

4. 週1回製剤などへの変更

毎日飲まなければならない薬を、「週に1回だけ飲めばよい薬」に変更できる場合があります。飲む回数が減るだけでも、心理的な負担は大きく軽減されます。

5. 注射薬へ切り替え、内服量を減らす

飲み薬を減らすために、来院時の「注射」に切り替えるご提案も可能です。腎不全による貧血の薬(造血剤)や骨粗しょう症の薬などは、ご自宅で毎日飲む代わりにクリニックでの注射に変更することで、ご自宅での薬の管理がぐっと楽になります。

さいごに

お薬は、病気を治療し、皆さんの身体を守るための大切なパートナーです。しかし、その数が多すぎて「毎日飲むのがつらい」「副作用が不安だ」と感じてしまっては、日々の生活の質を落とすことになりかねません。

「先生が出してくれた薬だから、減らしたいなんて言いにくい……」と遠慮される患者さんもいらっしゃいますが、どうぞご心配なさらないでください。私たち三鷹天野内科・腎臓内科クリニックが目指しているのは、単に検査の数値を良くすることではなく、地域の皆様が笑顔で、長く健やかな生活を送ること(健康寿命の延伸)です。

今年4月の開院以来、本当に多くの患者さんとお話しさせていただいておりますが、私自身、生まれ育ったこの三鷹の地で、皆様が安心して暮らせるためのサポートができることを心から嬉しく思っています。

お薬に関する疑問や不安は、決して一人で抱え込まず、いつでも私たちにご相談ください。医師、管理栄養士、そして地域の薬剤師の先生方ともしっかり連携しながら、あなたにとって「本当に必要で、無理のない治療」を一緒に見つけていきましょう。



参考文献)Geriatr Gerontol Int. 2020; 20:1105-1111.

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