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急性腎障害

急性腎障害(AKI)とは?

原因や治療法、将来のリスクについて分かりやすく解説

はじめに

今回は、腎臓の働きが急激に低下してしまう「急性腎障害(AKI:Acute Kidney Injury)」という病気について詳しく解説いたします。

「健康診断で急に腎臓の数値を指摘された」「最近、極端に尿の量が減った気がする」「熱を出してから体がひどくむくむ」といった症状は、もしかすると急性腎障害のサインかもしれません。急性腎障害は、早期に発見して適切な治療を行えば回復が見込める一方で、放置すると命に関わったり、将来の腎臓の健康に深刻な悪影響を残したりする恐れがあります。

このページでは、急性腎障害の基本的な知識から、原因、当クリニックでの治療方針までを分かりやすくまとめました。ご自身やご家族の健康を守るための参考にしていただければ幸いです。

急性腎障害とは

急性腎障害(AKI)とは、数時間から数日というごく短い期間の間に、急激に腎臓の機能が低下してしまう状態のことを指します。

少し前までは「急性腎不全」という言葉がよく使われていました。しかし、「腎不全(腎臓が完全に働かなくなった状態)」になってから治療を始めるのでは遅く、ごく軽度な機能低下の段階からいち早く異常を察知して治療を開始すべきである、という医学的な考え方の変化から、現在では「急性腎障害(AKI)」という名称が世界中で広く使われています。

私たちの腎臓は、血液中の老廃物や余分な水分をろ過し、尿として体の外へ出す「高性能なフィルター」のような役割を担っています。このフィルターが急に目詰まりを起こしたり、壊れて動かなくなったりしてしまうのが急性腎障害です。

どのように診断されるの?(KDIGOの診断基準)

急性腎障害は、世界的な腎臓病の専門家組織が定めた「KDIGO(ケーディゴ)ガイドライン」という世界共通の基準に基づいて診断されます。少し専門的になりますが、患者さんにも知っていただきたい重要なポイントは、以下の「血液の数値」と「尿の量」の2つです。

血液中の「クレアチニン」の急上昇

「結局クレアチニンを見るしかないのか。これなら普通の採血と一緒じゃん。」と思われてしまうかもしれませんが、そうです。クレアチニンを見るしかありません。腎機能が突然障害を受けた際に使える血液マーカーの中でクレアチニンよりも簡便で有用なものがまだ開発されていないのです。AKIになったらこのマーカーが上がる!というのを発見できれば大発見かもしれませんが、まだそこまで至っていません。

具体的には、「48時間以内にクレアチニンの数値が 0.3 mg/dL以上 増えた場合」、あるいは「過去7日間で普段の数値の 1.5倍以上 に跳ね上がった場合」に、急性腎障害と診断されます。「たった0.3増えただけ」と思うかもしれませんが、このわずかな変化を見逃さないことが早期治療の鍵になります。

尿の量が極端に減る(尿量減少)

実は尿量は非常に重要です。腎障害で最も早期に現れる症状が尿量の低下です。クレアチニンの上昇よりも尿量の低下のほうが先です。尿量が減ってくるというのは単純な指標ですが、非常に重要なサインです。

「6時間以上にわたって、体重1kgあたり1時間に0.5mL未満」しか尿が出なくなった場合も基準に当てはまります。例えば、体重60kgの方なら、1時間に30mL未満(6時間でペットボトル半分以下の180mL未満)しか尿が出ない状態です。普段より明らかにトイレに行く回数が減った場合は注意が必要です。

急性腎障害の問題点

「急に悪くなった病気なら、治療をすれば完全に元通りになるのでは?」と思われる方も多いかもしれません。しかし、急性腎障害には絶対に見過ごすことのできない、以下のようないくつかの深刻な問題点があります。

① 予後(よご)が悪い

「予後が悪い」とは、病気の経過が思わしくなく、命に関わる危険性があるということです。腎臓が急に働かなくなると、体中に毒素や余分な水分が溢れかえり、心臓や肺など全身の臓器に悪影響を及ぼすため、早期に対処しなければ非常に危険な状態に陥ります。

② 他の臓器の障害と合併すると生命予後が著しく不良になる

急性腎障害は、心臓の病気(心筋梗塞など)や肝臓の病気、あるいは大きな手術の後など、体に強い負担がかかっている時に引き起こされやすいという特徴があります。ただでさえ他の臓器がダメージを受けて弱っている時に、急性腎障害まで合併してしまうと、体全体のバランスが急速に崩壊し、命を落とす危険性が跳ね上がってしまいます。

③ 「敗血症(はいけつしょう)」に合併した場合は非常に予後が悪い

細菌などの病原菌が血液の中に入り込み、全身で猛烈な炎症を引き起こす「敗血症」という重篤な状態があります。この敗血症に伴って急性腎障害が発症した場合、腎臓へのダメージが極めて深刻になり、多臓器不全を引き起こしやすいため、非常に予後が悪いことがわかっています。

④ 「慢性腎臓病(CKD)」へ移行してしまう問題

近年、腎臓の専門医の間で最も警戒されているのがこの問題です。

いままでは、「急性腎障害は、しっかり治療をして危機を乗り越えれば、腎臓は完全に元通りに治癒する」と信じられていました。しかし最近の研究により、一度でも急性腎障害を起こすと、一見血液検査の数値が回復したように見えても、腎臓の組織には見えない「傷跡(線維化)」が残ってしまうことがわかってきました。

その結果、急性腎障害が治った後も、数年かけて徐々に腎臓の働きが落ちていく「慢性腎臓病(CKD)」へと移行してしまったり、将来的に人工透析が必要な状態(末期腎不全)になるリスクが極めて高くなることが明らかになっています。急性腎障害は決して「治って終わり」の病気ではないのです。

急性腎障害の原因

なぜ、急に腎臓が働かなくなってしまうのでしょうか。急性腎障害の原因は、大きく分けて「腎前性(じんぜんせい)」「腎性(じんせい)」「腎後性(じんごせい)」の3つに分類されます。

腎臓を「浄水器」に例えると非常に分かりやすいです。以下にそれぞれの原因を表にまとめました。

原因の分類

どのような状態か?(浄水器に例えると)

主な原因・具体例

① 腎前性

(じんぜんせい)

【水道の元栓が閉まっている状態】

腎臓へ流れ込む「血液の量」が極端に減ってしまった状態です。腎臓(浄水器)自体は壊れていませんが、水(血液)が来ないため、ろ過の仕事ができません。急性腎障害の中で最も多い原因です。

  • 重度の脱水(激しい下痢、嘔吐、熱中症、水分不足)
  • 大量の出血
  • 心不全(心臓が血液を送り出す力が弱い)
  • ショック状態による急激な血圧低下

② 腎性

(じんせい)

【浄水器のフィルター自体が壊れた状態】

腎臓そのもの(尿を作る細胞や組織)が、お薬の副作用や炎症などによって直接ダメージを受け、壊れてしまった状態です。

  • お薬の副作用(薬剤性):一部の痛み止め(NSAIDs)、抗生物質、CT検査の造影剤など
  • 重症の感染症(敗血症など)
  • 急性糸球体腎炎などの腎臓自体の病気
  • 横紋筋融解症(筋肉の成分が溶け出し腎臓に詰まる)

③ 腎後性

(じんごせい)

【排水ホースが詰まっている状態】

腎臓は正常に尿を作っていますが、腎臓から先の尿の通り道(尿管、膀胱、尿道)が何らかの原因で詰まってしまい、尿が外に出せず逆流して腎臓を圧迫している状態です。

  • 尿管結石(石が詰まる)
  • 前立腺肥大症(男性特有。尿道が圧迫される)
  • 骨盤内の腫瘍(膀胱がんや子宮がんなどが尿管を押しつぶす)

急性腎障害の治療

急性腎障害の治療における大原則は、「何が原因で起きているのか」をいち早く正確に突き止め、その原因を取り除くことです。先ほどの3つの原因(腎前性・腎性・腎後性)に合わせて、治療法は以下のように異なります。

① 腎前性(血液不足)の治療

原因の多くは「脱水」であるため、体液の回復が最優先となります。口から水分をとれない場合や症状が進行している場合は、点滴を行い、失われた水分と塩分(電解質)をしっかりと体内に補充します。腎臓への血流が十分に確保されれば、多くの場合、速やかに腎機能は回復に向かいます。

② 腎性(腎臓の直接的ダメージ)の治療

腎臓を攻撃している原因を取り除きます。もし、普段飲んでいるお薬(特定の痛み止めなど)が原因の「薬剤性」と疑われる場合は、直ちにそのお薬を中止、または腎臓に優しい別のお薬に変更します。

ただし、腎臓のダメージが大きく全く尿が作れない場合や、血液中の毒素やカリウムといった危険な物質が限界まで溜まってしまった場合は、腎臓が回復して自力で働き始めるまでの間、機械を使って血液をきれいにする「一時的な人工透析(血液透析)」が必要になることもあります。

③ 腎後性(尿の通り道の詰まり)の治療

物理的な「詰まり」を解除しなければ尿は出ません。前立腺肥大が原因で尿が出せない場合は、尿道から細い管(カテーテル)を入れて尿を外へ逃がします。結石や腫瘍などが原因で尿管が詰まっている場合は、泌尿器科の専門医と迅速に連携し、結石を砕いたり、尿管に細いチューブ(ステント)を通したりする処置が必要になります。

まとめ

急性腎障害(AKI)について解説いたしました。最後に、皆様に覚えておいていただきたいポイントをまとめます。

  • 院外(普段の日常生活の中)で発症する急性腎障害は、そのほとんどが「脱水」によって引き起こされます。 暑い時期の熱中症や、胃腸炎などで下痢や嘔吐が続いた時、またはご高齢で食事や水分の摂取量が減っている時は、特に注意が必要です。
  • 単なる脱水だけではなく、普段から服用しているお薬が原因(薬剤性)のケースや、腎臓自体の病気(腎性)、前立腺肥大などによる尿の詰まり(腎後性)が背景に隠れていることも時々あります。
  • 血液検査の数値が極めて悪い場合や、一時的な透析が必要なほどの重症な急性腎障害であると判断した場合には、患者さんの命を守ることを最優先とし、速やかに連携する地域の総合病院へご紹介し、高度な入院治療を受けていただくようご案内いたします。

急性腎障害は、「気づいた時にはかなり悪化している」ことが少なくありません。「最近尿の出が悪い」「急に体がむくんできた」「熱や下痢で水分が全く摂れていない」など、少しでも困ったことや不安な症状がありましたら、決してご自身で放置せず、どうぞお気軽に当クリニックまでご相談ください。

腎臓の専門医として、皆様の腎臓を生涯にわたって守るサポートを全力でさせていただきます。

参考文献)

AKI診療ガイドライン 2016. 日腎会誌 2017;59(4):419‒533.

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