高カリウム血症は危険って聞くけれど…「低カリウム」はどうなの?意外と知らないその怖さと治療法
皆様、こんにちは。
カリウムについて、腎臓が悪い方などは「カリウムが高いと危険だから、生野菜や果物を控えましょう」と指導された経験があるかもしれません。高カリウム血症が心臓に悪影響を及ぼし、時には命に関わることは比較的よく知られています。
では、逆にカリウムが「低い」場合はどうなのでしょうか?「低いなら安全じゃないの?」と思われるかもしれませんが、実は「低カリウム血症」も放置してはいけない非常に重要なサインであり、体に様々な悪影響を及ぼします。
今日は、この「低カリウム血症」にスポットライトを当て、その原因から、腎臓や心臓に与える影響、そして少しマニアックですが処方薬の使い分けまで、詳しく、そしてわかりやすく解説していきたいと思います。
そもそも、カリウムとは何でしょうか?
カリウムは、ナトリウム(塩分)などと同じく、私たちの体になくてはならないミネラル(電解質)の一種です。体の中のカリウムの大部分は細胞の中に存在し、神経の伝達や、筋肉を動かすための電気信号を正常に保つという、非常に重要な役割を担っています。血液中のカリウム濃度は、常に一定の非常に狭い範囲(通常3.5~5.0 mEq/L程度)に保たれるように、主に腎臓が絶妙なバランスで調節しています。これが低くなってしまう(3.5 mEq/L未満になる)状態を、低カリウム血症と呼びます。
1. なぜカリウムが低くなるの?(低カリウムになる原因)
カリウムが不足してしまう原因は、大きく分けると「体に入ってくる量が少ない」「体の外に出すぎてしまう」「血液の中から細胞の中に逃げ込んでしまう」の3つに分類されます。わかりやすく表にまとめてみました。
| 原因の分類 | 具体的な状況や病気 |
| ① 食事などからの摂取不足 | 極端な偏食、長期の絶食、点滴のみでカリウムが入っていない場合など |
| ② 体外への過剰な排出(消化管から) | 激しい嘔吐、長引く下痢。また、下剤の乱用など |
| ③ 体外への過剰な排出(腎臓・尿から) | 利尿薬(尿を出す薬)の使用、特定のホルモンの異常(原発性アルドステロン症など)、一部の腎臓疾患など |
| ④ 細胞の中への移動 | インスリン治療中、アルカローシス(体がアルカリ性に傾く状態)、甲状腺機能亢進症など |
この中でも特に気をつけたいケースの一つが、若い女性などにも見られる「神経性食思不振症(いわゆる拒食症などの摂食障害)」の方において、体重を減らす目的で下剤や利尿薬を乱用してしまうケースです。
お薬の力で無理に水分や便を体外に排出すると、それに伴って大量のカリウムが一緒に体の外へ流れ出てしまいます。食事からのカリウム摂取も極端に少ない状態であることが多いため、非常に重篤な低カリウム血症を引き起こし、救急搬送される事態になることも少なくありません。ご自身やご家族で思い当たる節がある場合は、決して一人で悩まずに医療機関にご相談ください。
2. 慢性的な低カリウム血症は「腎不全」をきたす?
「カリウムと腎臓」というと、「腎臓が悪くなるとカリウムが尿から出せなくなって、高カリウム血症になる」というイメージが強いと思います。実は、高カリウム血症そのものは心臓には危険ですが、腎臓という臓器自体に対して直接的な大ダメージを与えるわけではありません。「腎臓が悪いから(結果として)高カリウムになる」という関係性です。
しかし、低カリウム血症は違います。低カリウム血症そのものが、腎臓に直接的な悪影響を及ぼしてしまうことがあるのです。
腎臓には、血液をろ過して尿を作り、体に必要な水分やミネラルを再吸収する「尿細管(にょうさいかん)」という細い管の集まりがあります。
まず、カリウムが低い状態が続くと、腎臓が尿を濃縮する(水分を体に留めておく)能力が落ちてしまいます。これを「腎性尿崩症(じんせいにょうほうしょう)」と呼びます。結果として、水のような薄い尿が大量に出るようになり(多尿)、のどが渇いて水分をたくさん飲む(多飲)といった症状が現れます。いわゆる、強力な利尿作用のような状態が起きてしまうのです。
さらに怖いのはここからです。
慢性的に低カリウム血症の状態が続くと、先ほどお話しした腎臓の大切な器官である「尿細管」に直接的なダメージを与え続けてしまいます。このダメージが蓄積すると、「慢性尿細管間質性腎炎(まんせいにょうさいかんかんしつせいじんえん)」という病気を引き起こします。
名前は難しいですが、要するに「腎臓のフィルターと再吸収ポンプの周りで慢性的な炎症が起き、腎臓の組織が少しずつ壊れて硬くなっていく」状態です。これを放置しておくと、腎臓の機能は元に戻らなくなり、徐々に進行して最終的には「腎不全」に至ってしまうのです。
「ただカリウムが少し低いだけ」と侮っていると、将来的に透析が必要になるような腎不全の原因を作ってしまうことになります。これが低カリウム血症の恐ろしい側面です。
3. 低カリウム血症の恐ろしい症状:「不整脈」と「全身の脱力」
高カリウム血症が「致死性不整脈(命に関わる危険な脈の乱れ)」を引き起こすことは比較的有名です。しかし、低カリウム血症でも同様に危険な不整脈が起こることをご存知でしょうか。
心臓は、筋肉の塊でできており、微弱な電気信号が規則正しく流れることでリズミカルに収縮と拡張を繰り返しています。この電気信号を正常に発生させ、伝えるために、細胞のカリウム濃度のバランスが極めて重要になります。 カリウムが不足すると、この心臓の電気システムが非常に不安定になります。最初は「心室期外収縮(しんしつきがいしゅうしゅく)」といって、胸がドキンとしたり脈が飛んだりするような動悸として感じることが多いです。しかし、さらにカリウムが低下していくと、心電図上で「QT延長」と呼ばれる異常が現れやすくなります。これは「心室頻拍(しんしつひんぱく)」や「心室細動(しんしつさいどう)」といった、心臓が痙攣して全身に血液を送り出せなくなる命に直結する致死性不整脈の引き金となります。
そしてもう一つ、心臓だけでなく「全身の筋肉」にも重大な影響が及びます。 それが「脱力(だつりょく)」です。 カリウムは、神経から筋肉へ「動け!」という命令を伝えるのにも不可欠なミネラルです。そのため、カリウムが不足すると「なんとなく体がだるい」「手足に力が入らない」「立ち上がれない」といった全身の強い脱力感や、手足の麻痺が現れることがあります。 さらに極端にカリウムが低下した最悪のケースでは、呼吸をするための筋肉(呼吸筋)まで動かなくなる「呼吸筋麻痺(こきゅうきんまひ)」を引き起こし、自力で息ができなくなるリスクすらあります。
もちろん、そこまで重症化することは稀(まれ)ですが、「ただの疲労やだるさだと思っていたら、実はカリウム不足が背後に隠れていた」ということは十分にあり得ます。高カリウムだけでなく、低カリウムも体にとっては非常に大きなストレスと危険を伴うのです。
4. 低カリウムに対する処方は「補充」が基本。お薬の違いとは?
では、低カリウム血症になってしまったらどうやって治療するのでしょうか?
基本的には、原因を取り除くこと(下剤の乱用をやめる、原因となっているお薬を変更するなど)と同時に、足りないカリウムを補う「補充療法」を行います。食事からカリウムを摂ることも大切ですが、明らかに不足している場合は飲み薬(内服薬)でお薬として補充するしかありません。
ここで少しだけ、私たち医師が処方するお薬の裏側、少しマニアックな話をさせてください。
「KCL(塩化カリウム)」と「アスパラK(L-アスパラギン酸カリウム)」、どっちを使うの?という疑問です。「どちらもカリウムなんだから、同じじゃないの?」と思われるかもしれませんが、実は明確な使い分けのルールがあります。
結論から言うと、基本的には「塩化カリウム(KCL)」を使用すればすべてOKとされています。
これには「体の酸とアルカリのバランス(酸塩基平衡)」が深く関わっています。
低カリウム血症を起こしている時、実は人間の体は「代謝性アルカローシス」といって、通常よりも少しアルカリ性に傾いていることが非常に多いのです。
一方、アスパラKに含まれるアスパラギン酸やクエン酸といった成分は、全身の各臓器で代謝されると「重炭酸」という物質に変わります。この重炭酸は、体を「アルカリ性」にする働きがあります。
つまり、すでに体がアルカリ性に傾いている低カリウムの患者さんにアスパラKを使ってしまうと、さらに体をアルカリ性にしてしまい、体のバランスを崩してしまうのです。そのため、アスパラKは通常は使用しません。体をアルカリ性に傾かせない塩化カリウム(KCL)が第一選択となります。
では、例外はあるのでしょうか?
例えば「尿細管性アシドーシス(RTA)」などの特殊な病態では、体が「酸性」に傾いてしまう(代謝性アシドーシス)状態と、低カリウム血症が同時に存在することがあります。この場合は体が酸性なので「アスパラKを使ってアルカリで中和したほうがいいのでは?」と考えるかもしれません。しかし、このような特殊な状況下であっても、まずは低カリウムの治療(補充)を確実に行うことを優先すべきとされています。そのため、初期治療としては迷わず「塩化カリウム(KCL)」を使用して問題ありません。
5. 適切な管理を目指して
いかがでしたでしょうか。少し専門的なお話も交えましたが、低カリウム血症が腎臓や心臓に与える影響の大きさが伝わりましたら幸いです。
「たかがカリウム」と放置せず、適切な原因究明と治療を行うことが、皆様の将来の健康、特に腎臓の機能や命を守ることに直結します。
当クリニックでは、定期的な血液検査(採血)と心電図検査、そして何より患者さんの症状をしっかりとお伺いすることで、安全かつ適切な管理を目指しています。
検査でカリウムの異常を指摘された方や、長引く下痢・嘔吐、原因不明の動悸、多尿などでお悩みの方がいらっしゃいましたら、主病態(大元の原因)をしっかりと診断いたします。当院での治療はもちろんのこと、より専門的な治療や検査が必要な疾患が隠れていた場合には、大学病院や総合病院とスムーズに連携を取りながら管理を行ってまいります。
ご自身の健康のことで少しでもご不安なことがあれば、いつでもお気軽に当院までご相談ください。
皆様が健やかな毎日を過ごせるよう、スタッフ一同、全力でサポートさせていただきます。
それでは、良い日曜日をお過ごしください!
