蛋白制限について
腎臓を守るための食事療法:「蛋白制限」の正しい知識とあなたに合った付き合い方
こんにちは。三鷹あまの内科・腎クリニックの天野博明です。
健康診断で腎臓の数値を指摘されたり、すでに「慢性腎臓病(CKD)」と診断されて治療を続けていらっしゃる患者さんから、診察室でよくこのようなご相談を受けます。
「腎臓のために食事制限が必要と聞いたけれど、何をどれくらい食べたらいいの?」
「たんぱく質を減らさないといけないと言われたけれど、お肉やお魚は一切食べてはいけないの?」
毎日の食事は生活の楽しみそのものですから、制限がかかることに対して不安やストレスを感じる方は非常に多くいらっしゃいます。腎臓病の進行を抑えるために、食事療法は非常に重要なお薬のような役割を果たします。その中でも特に重要視されているのが「たんぱく質(蛋白)の制限」です。
しかし、この「蛋白制限」は、ただやみくもに減らせば良いというものではありません。制限を厳しくしすぎることによって、かえって健康を損なってしまうという「負の側面」もあるからです。
今回は、腎臓病治療における「蛋白制限」の意味や重要性、過度な制限によるリスクと、当院が大切にしている「患者さん一人ひとりに合わせた栄養指導」について、できるだけわかりやすく解説していきます。
腎臓内科における蛋白制限とは
たんぱく質は、肉、魚、卵、大豆製品などに多く含まれ、私たちの筋肉や血液を作るために欠かせない大切な三大栄養素の一つです。健康な人であれば、摂取したたんぱく質を体内で有効に使い、不要になった「燃えカス(老廃物)」は腎臓のろ過機能によって尿と一緒に体の外へ排出されます。
しかし、腎臓の働きが低下している慢性腎臓病の患者さんの場合、この老廃物をうまく排泄することができず、体内に毒素が溜まりやすくなってしまいます。そのため、老廃物の元となるたんぱく質の摂取量をあらかじめ減らしておく「蛋白制限」が必要になってくるのです。
腎臓病は、腎機能の低下具合によってステージG1からG5まで分類されます。蛋白制限の目標値は一律ではなく、腎機能障害が進展すればするほど、より厳格な制限が必要になります。
一般的な慢性腎臓病のステージごとの蛋白摂取量の目安は以下の通りです。
| CKDステージ | 腎臓の状態 (eGFR) | たんぱく質摂取量の目標量(体重1kgあたり/日) |
| ステージG1・G2 | 正常〜軽度低下 | 過剰な摂取をしない(一般的な食事量でOK) |
| ステージG3a | 軽度〜中等度低下 | 0.8 〜 1.0 g/kg/日 |
| ステージG3b | 中等度〜高度低下 | 0.6 〜 0.8 g/kg/日 |
| ステージG4・G5 | 高度低下〜末期腎不全 | 0.6 〜 0.8 g/kg/日 (より厳密な管理が必要) |
※上記の「体重」は標準体重(BMI 22)で計算します。
※これは一般的なガイドラインに基づく基準であり、実際の指導は年齢や体格によって異なります。
このように、初期の段階では「食べ過ぎない」ことが基本ですが、ステージが進むにつれて、明確な数値目標を持った制限が求められるようになります。
蛋白制限はなぜ重要なのか
それでは、なぜ腎臓が悪くなると、これほどまでにたんぱく質の制限が重要視されるのでしょうか。それには大きく分けて2つの医学的な理由があります。
1. 腎臓の過労(糸球体高血圧)を防ぎ、ネフロンを守るため
腎臓の中には「糸球体(しきゅうたい)」と呼ばれる、毛細血管が丸まった小さなろ過装置が無数にあります。この糸球体と、それに続く尿細管などを合わせた一つの単位を「ネフロン」と呼びます。
たんぱく質を過剰に摂取すると、それを処理するために腎臓にたくさんの血液が流れ込み、糸球体の中の血圧が高くなってしまいます。これを「糸球体高血圧」と呼びます。
この高い圧力がかかり続けることで、糸球体の細い血管はダメージを受け、大切なネフロンが次々と破壊されてしまいます。一度壊れたネフロンは二度と元には戻りません。蛋白制限を行うことで糸球体にかかる圧力を下げ(過労を防ぎ)、残っているネフロンを長持ちさせることができるのです。
2. 血液の酸性化(代謝性アシドーシス)を防ぐため
私たちの体は通常、弱アルカリ性に保たれています。たんぱく質が体内で分解されると、最終的に「硫酸」や「リン酸」といった不揮発性の酸(ガスとして肺から出せない酸)が作られます。健康な腎臓は、この酸を尿の中に捨てて体のバランスを保ちます。
しかし、腎不全のステージが進むと酸を捨てきれなくなり、血液が酸性に傾いてしまいます。この状態を「代謝性アシドーシス」と呼びます。
代謝性アシドーシスになると、体がだるくなったり骨がもろくなるだけでなく、腎臓の悪化をさらに助長する悪循環を引き起こします。たんぱく質の摂取量を減らすことは、不揮発性の酸の発生源そのものを減らし、アシドーシスを防ぐために非常に重要なのです。
蛋白制限の「負の側面」(過剰な制限は筋肉量の低下を招く)
ここまで読んで、「それなら、たんぱく質を極限まで減らせば腎臓はずっと守られる」と思われたかもしれません。しかし、そこに大きな落とし穴があります。
近年、高齢化が進む中で、過剰な蛋白制限がもたらす「負の側面」が強く懸念されるようになっています。そのキーワードが「サルコペニア」と「フレイル」です。
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サルコペニア:加齢や栄養不足により、筋肉の量と質が低下し、筋力が弱まってしまう状態。
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フレイル:筋肉量の低下に加え、精神的な活力も衰え、要介護状態の一歩手前まで心身が老い衰えた状態。
現在、高齢の慢性腎臓病(CKD)患者さんにおいて、このサルコペニアやフレイルを合併するケースが非常に多く注目されています。
たんぱく質は筋肉の材料そのものです。腎臓の数値を良くすることばかりに気を取られて過剰な蛋白制限を続けると、筋肉を作る材料が決定的に不足します。すると体は、エネルギーを補うために自分自身の筋肉を分解し始めてしまいます。
その結果、筋肉が落ち、足腰が弱り、「転倒」や「寝たきり」といったサルコペニア・フレイルを助長するリスクが高まってしまうのです。腎臓の寿命を延ばせても、患者さんご自身の健康寿命が縮んでしまっては全く意味がありません。
そのため現在の腎臓病治療では、画一的な制限を押し付けるのではなく、サルコペニア・フレイルの傾向がある患者さんに対しては、あえて蛋白制限を緩和する方針がとられています。腎臓を守ることと、筋肉を守ること。この二つのバランスをどう取るかが非常に大切です。
サルコペニア・フレイルを合併した方のたんぱく質摂取量の目安
筋肉量の低下(サルコペニア)や心身の衰え(フレイル)がみられる患者さんには、一般的なCKDの基準とは異なる、特別な「たんぱく質の考え方」がガイドライン(CKD診療ガイド2024)でも示されています。
以下の表は、ステージごとの「一般的な目標量」と、「サルコペニアを合併している場合の考え方」を比較したものです。
表:サルコペニアを合併したCKDの食事療法におけるたんぱく質の考え方と目安
| CKDステージ(腎機能) | 一般的なたんぱく質制限の目標量(体重1kgあたり/日) | サルコペニアを合併している場合の考え方(摂取上限の目安) |
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G1・G2 (正常〜軽度低下) |
過剰な摂取をしない |
制限を緩和するケースと優先するケースに分かれます ・緩和する場合の上限:1.3 g/kg/日 ・制限を優先する場合:一般的な目標量と同じ |
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G3a (軽度〜中等度低下) |
0.8 〜 1.0 g |
制限を緩和するケースと優先するケースに分かれます ・緩和する場合の上限:1.3 g/kg/日 ・制限を優先する場合:1.0 g/kg/日 |
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G3b (中等度〜高度低下) |
0.6 〜 0.8 g |
基本は制限を優先しますが、病態により緩和します ・緩和する場合の上限:0.8 g/kg/日 |
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G4・G5 (高度低下〜末期) |
0.6 〜 0.8 g |
基本は制限を優先しますが、病態により緩和します ・緩和する場合の上限:0.8 g/kg/日 |
※上記の「体重」は標準体重(身長m × 身長m × 22)で計算します。
表を見ていただくと分かるように、ステージG3aまでの比較的早期の段階では、筋肉を守るために「たんぱく質制限を大きく緩和する(1.3gまで許容する)」という選択肢が用意されています。
一方で、ステージG3b以降の腎機能低下が進行した状態になると、たんぱく質を摂りすぎることが腎臓にとって致命的なダメージになりかねないため、「基本は制限を優先しつつも、厳しすぎる制限(0.6g未満など)は避けて0.8g程度にとどめる」という、非常に繊細なコントロールが必要になります。
「自分の場合は、制限を優先すべきか?それとも筋肉を守るために緩和すべきか?」
この見極めは非常に難しいため、専門的な知識を持ったチームでのサポートが不可欠です。
患者さんにあった「オーダーメイド」の栄養指導処方を
インターネットや書籍には「たんぱく質は何グラムまで」といった情報があふれています。しかし、患者さんの年齢、現在の腎臓の数値、筋肉量、生活スタイルは、一人ひとり全く異なります。
「Aさんにとって最適な食事」が、「Bさんにとっては筋肉を落としてしまう危険な食事」になることも十分にあり得るのです。
だからこそ、三鷹あまの内科・腎クリニックでは、CKDの患者さんへ向けた専門的な栄養指導に非常に力を入れています。
当院の栄養指導は、「あれもダメ、これもダメ」と禁止事項を並べるものではありません。管理栄養士が患者さんとじっくりお話しし、普段のお食事内容や、体重・歩くスピードの変化など、日々の様子を丁寧にヒアリングします。
そして、医師と管理栄養士が連携し、患者さんの状態を見ながら「オーダーメイドの栄養指導処方」を行っています。
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このように、お一人おひとりに柔軟で現実的なアドバイスをご提供します。
食事は毎日のことです。正しい知識を身につけ、ご自身の体の状態に合った「ちょうどいいバランス」を見つけることが、長く治療を続けていくための最大の秘訣です。
「今の自分の食事はこれで合っているのかな?」と不安を感じている方は、決して一人で悩まずに、ぜひ一度当院にご相談ください。美味しく楽しく続けられる食事療法を、私たちと一緒に見つけていきましょう。
参考文献)
東京医学社 CKD診療ガイド2024(日本腎臓学会編)
