カリウムについて
腎臓病の患者さんは要注意!「高カリウム血症」の原因と予防・治療について
健康のために良かれと思って続けている習慣が、実はあなたの体に負担をかけているかもしれない……そんなお話を聞いたことはありますか?
今回は、腎臓病の患者さんにとって非常に重要となる「高カリウム血症」についてお話しします。腎臓内科の診察室で、私たちが患者さんに一番最初にお話しする、とても大切な指導内容の一つです。
「カリウムって体に必要なミネラルじゃないの?」と疑問に思う方もいらっしゃるかもしれません。その通りです。しかし、腎臓の働きが落ちている方にとっては、少し事情が変わってきます。この記事では、高カリウム血症の原因から、検査、治療、そして日々の予防策まで、わかりやすく解説していきます。
カリウムの正常値と、高くなることの恐ろしさ
カリウムの正常値とは?
健康な方の血液中のカリウム濃度は、3.5〜5.0 mEq/L という非常に狭い範囲に保たれています。カリウムは、筋肉を動かしたり、神経の伝達を助けたりする、人間が生きていく上で欠かせない重要なミネラルです。
なぜカリウムが高くなるといけないのか?
では、なぜこの数値が高くなるといけないのでしょうか。
それは、「致死性不整脈(命に関わる重篤な不整脈)」を引き起こす危険性が非常に高くなるからです。
カリウムは心臓の筋肉(心筋)の動きをコントロールする役割も担っています。血液中のカリウム濃度が正常値を超えて高くなりすぎると、心臓の電気信号が乱れ、最悪の場合は突然心臓が止まってしまう(心停止)こともあります。初期の段階では、手足のしびれ、吐き気、だるさなどの症状が出ることもありますが、恐ろしいのは「自覚症状がないまま進行し、突然心臓に異常をきたすことがある」という点です。
だからこそ、高カリウム血症の予防と管理は、腎臓内科に通う患者さんにとって「命を守るための最初のお約束」として、最も大事な指導項目となっているのです。
カリウムが高くなる原因
では、なぜ血液中のカリウムが高くなってしまうのでしょうか。主な原因は以下の通りです。
1. 腎臓の働きの低下(腎臓病)
カリウムが高くなる最も大きな原因は「腎臓病」です。私たちが食事からとったカリウムは、約9割が腎臓でろ過され、尿として体外へ排泄されます。しかし、腎臓の働きが低下していると、この「カリウムを捨てる機能(排泄機能)」がうまく働かず、体の中にどんどん溜まってしまうのです。
2. お薬の影響(ARB、MRAなど)
腎臓病の患者さんは、血圧をコントロールしたり、腎臓を保護したりするために、たくさんのお薬を内服しています。
その中でも、ARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)という降圧薬や、MRA(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)という利尿薬などは、腎臓や心臓を守るための素晴らしいお薬である反面、「副作用としてカリウムの数値を上げてしまう」という特徴を持っています。排泄障害があるところに、これらの薬が重なることで、より高カリウム血症になりやすくなります。
3. 果物や生野菜などの過剰摂取
カリウムは、バナナやメロンなどの果物、トマトやほうれん草などの生野菜、芋類、海藻類などに豊富に含まれています。
4. 「健康のため」の習慣が引き起こす落とし穴
ここで特に気をつけていただきたいのが、「健康だと思って続けている習慣が、かえって高カリウム血症をきたしているケース」です。 例えば、毎朝の青汁、野菜ジュース、グリーンスムージーなどです。これらは健康食品の代表格ですが、カリウムがギュッと濃縮されているため、腎臓病の患者さんが飲むと、あっという間に危険な数値までカリウムが跳ね上がってしまうことがあります。「体に良いから」と無理して飲んでいるものが、実は心臓の危険を招いていることもあるので、十分な注意が必要です。
高カリウムの検査
カリウムの数値や心臓への影響は、主に以下の2つの検査で確認します。
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採血(血液検査)
現在の血液中にカリウムがどれくらい溜まっているかを正確に数値化します。定期的な診察の際の採血は、このカリウム値をチェックする重要な意味を持っています。
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心電図検査
血液検査だけでなく、心電図も非常に重要です。先ほどお話しした通り、高カリウム血症の一番の恐怖は「心臓への影響」です。心電図をとることで、高カリウム血症特有の波形の変化(テント状T波など)が出ていないか、危険な不整脈の兆候がないかを直接確認します。
高カリウムの治療
もし高カリウム血症になってしまった場合、心臓への影響(不整脈の有無)によって治療方針が大きく変わります。
致死性不整脈が出ている(または危険が迫っている)場合
心電図に異常が出ており、命に関わる不整脈の危険がある場合は、一刻を争う緊急事態です。すぐに救急車を呼び、高度な治療ができる大きい病院へ搬送する必要があります。
病院では以下のような緊急処置を行います。
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グルコン酸カルシウムの投与: 不整脈を予防する注射です。これを投与することで致死性不整脈への移行を予防するのです。
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GI療法(グルコース・インスリン療法): インスリンとブドウ糖(グルコース)を一緒に点滴することで、血液中に溢れているカリウムを、細胞の中へと強制的に避難させ、一時的に血液中のカリウム値を下げます。
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透析: これらの処置でも追いつかないほど重症な場合は、緊急で血液透析を行い、機械の力で直接血液からカリウムを取り除きます。
致死性不整脈が出ていない(数値が高いだけ)場合
心電図に異常がなく、緊急性はないものの数値が高い場合は、外来で以下のような治療・対策を行います。
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カリウムを下げるお薬の処方: 腸の中でカリウムを吸着し、便と一緒に体外へ排出させる「カリウム吸着薬」などを処方します。以下に薬をまとめた表を作成します。
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栄養指導(食事療法): 食事からのカリウム摂取量を減らすための具体的なアドバイスを行います。
| 分類 | 一般名(代表的な商品名) | 主な特徴・作用機序 | 主な副作用・注意点 | 薬価の目安※ |
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従来薬 (陽イオン交換樹脂) |
ポリスチレンスルホン酸カルシウム (アーガメイト、カリメート 等) |
・腸管内でカリウムとカルシウムを交換 ・ナトリウム負荷がないため、塩分制限が必要な患者(心不全・高血圧等)に使いやすい ・ゼリー、散剤、ドライシロップなど剤形が豊富 |
・便秘、腹部膨満感、嘔気 ・重大な副作用として腸閉塞、腸管穿孔 ・低カリウム血症 |
安価 (例:ゼリー25g 1個で約100〜150円台) |
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ポリスチレンスルホン酸ナトリウム (ケイキサレート 等) |
・腸管内でカリウムとナトリウムを交換 ・カルシウム負荷がないため、高カルシウム血症を合併している患者に選択される |
・便秘、嘔気 ・ナトリウム負荷による浮腫、血圧上昇、心不全増悪 ・腸閉塞、低カリウム血症 |
安価 (数十円/回 程度) |
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新規薬 (新規カリウム吸着薬) |
パチロマーソルビテクスカルシウム (ビルタサ懸濁用散) |
・主に大腸でカリウムを吸着し、カルシウムと交換する非吸収性ポリマー ・従来薬に比べて便秘などの消化器症状が少ない ・ARBやMRA継続のための長期管理に適している |
・低マグネシウム血症(定期的なMg測定が推奨される) ・便秘(従来薬よりは少ない)、下痢 ・他の内服薬の吸収を遅らせる可能性(他剤と約3時間間隔を空ける) |
高価 約900円台 / 1包 (8.4g規格) |
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ジルコニウムシクロケイ酸ナトリウム水和物 (ロケルマ懸濁用散) |
・胃から大腸の全域でカリウムを選択的に捕捉し、ナトリウム等と交換する無機結晶 ・即効性に優れる(服用後、約1時間から低下作用を発揮) ・便秘の副作用が非常に少ない |
・ナトリウム負荷による浮腫(用量依存的。心不全患者等で注意) ・低カリウム血症 |
高価 約1,000円台 / 1包(5g規格) 約1,400円台 / 1包(10g規格) |
高カリウム血症にならないために
高カリウム血症を防ぐためには、**「日々のセルフケア」**が何よりも大切です。
食事では、カリウムの多い食品(果物、生野菜、芋類など)の量に気をつけることが基本です。カリウムは水に溶けやすい性質があるため、「野菜は細かく切って水にさらす」「たっぷりのお湯で茹でこぼす(茹で汁は捨てる)」といった工夫をするだけで、カリウムの量を大幅に減らすことができます。
また、「薬(ARBやMRA)がカリウムを上げるなら、飲むのをやめればいいのでは?」と思う方もいるかもしれません。しかし、絶対に自己判断でお薬を中断しないでください。
腎臓病の治療薬は、確かに高カリウムのリスクをはらんでいますが、それ以上に「長期に継続することで、腎臓を長持ちさせ、将来の予後を改善する」という極めて重要なメリットがあります。医師は、定期的な血液検査でカリウムの数値をにらみっこしながら、あなたにとって一番良いお薬のバランスを調整しています。
さいごに
「野菜は体に良いと言われてきたのに、食べてはいけないの?」
「何を食べたらいいのかわからなくなってしまった……」
腎臓病の食事療法を始めると、多くの方がこのような戸惑いを感じられます。制限ばかりで不安になってしまうお気持ち、とてもよくわかります。
でも、決して一人で抱え込まないでくださいね。当院では、患者さん一人ひとりのライフスタイルや好みに合わせた栄養指導を行っています。「こんな食べ方なら大丈夫ですよ」「この食材なら楽しめますよ」といった、前向きで具体的なアドバイスをさせていただきます。
カリウムのことで不安なこと、食事作りで困っていることがありましたら、いつでもお気軽に当院にいらしてください。私たちと一緒に、美味しく、そして安全な食生活を見つけていきましょう!
