【CKD患者さん必見】熱がある、食欲がない…その症状、要注意!知っておきたい「シックデイ」のルール
皆さんは「シックデイ(Sick Day)」という言葉をご存知でしょうか? 「シックデイ」というと、糖尿病の患者さんが体調を崩したときの対応としてご存知の方も多いかもしれません。しかし、実は慢性腎臓病(CKD)の患者さんにとっても、絶対に知っておいていただきたい非常に重要な考え方なのです。
「ちょっと風邪をひいただけだから」「熱があるけれど、いつも通りお薬は飲まなきゃ」と無理をしていませんか?
今日は、体調不良のときにあなたの腎臓を守るための大切なルールについて、詳しく解説していきます!
シックデイとは?
シックデイとは、直訳すると「病気の日」です。具体的には、感染症(風邪や胃腸炎など)にかかったり、強いストレスを受けたり、発熱や下痢、嘔吐などによって体調が悪化し、いつも通りに食事や水分がとれなくなってしまった状態のことを指します。
食事や水分が摂れないと、私たちの体は簡単に「脱水状態」に陥ります。
実は、慢性腎臓病(CKD)の患者さんがこの脱水状態のときに、普段飲んでいるお薬をそのまま飲み続けると、急性腎障害(AKI:急激に腎臓の働きが低下する状態)を引き起こす危険性が非常に高くなります。
特に、痛み止めの「ロキソニン」などに代表されるNSAIDs(非ステロイド性消炎鎮痛薬)や、血圧を下げるお薬(RAS系阻害薬)を飲んでいる方は要注意です。高齢の方や、すでに脱水が疑われる患者さんにおいては、一時的にお薬の服用をストップ(休薬)すべきケースがあります。
このように、体調不良時に特定の薬剤を休止し、腎臓を守るための約束事を「シックデイ・ルール」と呼びます。脱水時は、お薬による「薬剤性腎障害」のリスクが跳ね上がるということを、まずはぜひ覚えておいてください。
慢性腎臓病の患者さんがシックデイのときに注意する薬剤
では、具体的にどのようなお薬に気を付ければよいのでしょうか?
シックデイの際に、そのまま飲み続けると危険な引き金になりやすい代表的なお薬をいくつかご紹介します。
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SU剤(糖尿病のお薬)
食事がとれていない状態でこのお薬を飲むと、体内の代謝が落ちていることも重なってお薬の血中濃度が上がり、危険な「低血糖」を引き起こすリスクが非常に高くなります。
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RAS系阻害薬(ARBやACE阻害薬など/血圧のお薬)
腎臓を保護する働きもある良いお薬ですが、脱水時には注意が必要です。脱水によってただでさえ腎臓への血流が下がっている状態に追い打ちをかけ、腎臓の働きをガクンと落としてしまうことがあります。
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NSAIDs(ロキソニンなどの痛み止め・解熱薬)
こちらも腎臓の血管をキュッと収縮させてしまうため、腎臓の「虚血(血の巡りが悪くなること)」を悪化させてしまいます。
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SGLT2阻害薬(糖尿病・慢性腎臓病・心不全のお薬)
尿から糖を出すお薬ですが、同時に尿の量も増えるため、脱水状態をさらに誘発してしまう恐れがあります。
医療の先進国である米国では、シックデイの際に休薬を検討すべきこれらの薬剤の頭文字をとって、「SADMANS(サッドマンズ)」と呼んで注意喚起しています。
以前のブログでも、「Triple Whammy(トリプル・ワミー:悲劇の三重奏)」について解説しましたね!利尿薬+RAS系阻害薬+NSAIDs(痛み止め)の3つを同時に飲むと腎臓に致命的なダメージを与えやすいというお話でしたが、シックデイの脱水状態では、このリスクがさらに爆発的に高まってしまうのです。
分かりやすく、シックデイの時に休薬を考慮するお薬を表にまとめました。
(※これらのお薬は、手術を受ける際の「術前・術後」などでも中止を指示されることが多いお薬です。)
【表:シックデイで休止を考慮すべきお薬(SADMANS)】
| 頭文字 | 薬剤の種類(一般名) | 処方される主な目的 | 休薬する理由 |
| S | SU剤(スルホニル尿素薬) | 糖尿病 | 食事低下時の深刻な低血糖を防ぐため |
| A | ACE阻害薬 | 高血圧・心不全など | 腎臓への血流低下・急性腎障害を防ぐため |
| D | Diuretics(利尿薬) | むくみ・高血圧など | 脱水状態のさらなる悪化を防ぐため |
| M | Metformin(メトホルミン) | 糖尿病 | 乳酸アシドーシスという危険な副作用を防ぐため |
| A | ARB(アンジオテンシン受容体拮抗薬) | 高血圧・心不全・CKDなど | 腎臓への血流低下・急性腎障害を防ぐため |
| N | NSAIDs(非ステロイド性消炎鎮痛薬) | 痛み・発熱(ロキソニン等) | 腎臓の血管を収縮させ、血流を悪化させるため |
| S | SGLT2阻害薬 | 糖尿病・心不全・CKDなど | 尿量増加による脱水の悪化を防ぐため |
【注意】 自己判断でお薬を長期間やめてしまうのも危険です。後述するように、休薬の判断は必ず主治医と相談しながら行いましょう。
お薬はどんなときに中止する?(シックデイのサイン)
「体調が悪いといっても、どの程度で気を付ければいいの?」と迷う方もいらっしゃるでしょう。
具体的には、以下のような症状が出たときが「シックデイ」のサインです。お薬の一時的な休止を検討する目安となります。
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脱水症状
尿の量が極端に減る・全く出ない、口の中がカラカラに乾く、皮膚がカサカサする
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消化器症状
吐き気、嘔吐、下痢、胃痛、極端な食欲低下(普段の半分以下しか食べられないなど)
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全身の症状
発熱、強い倦怠感(だるさ)、めまい、立ちくらみ
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腎機能低下を疑う症状
手足や顔のひどいむくみ(浮腫)、尿の色の異常な濃縮、無尿など
※気をつけて!「尿毒症」のサインかも
腎臓の機能が急激に低下すると、体に老廃物が溜まってしまい「尿毒症(にょうどくしょう)」という状態になることがあります。「気持ち悪くて吐いてしまう」「食欲が全くわかない」「体がだるくて起き上がれない」といった症状は、単なる風邪や胃腸炎ではなく、腎臓の働きが悪くなったことによるSOSの可能性もあります。そのまま放置するのは非常に危険です。
これからの暑い季節、CKD患者さんの「正しい水分補給」
カレンダーも6月に入り、三鷹周辺もだんだんと湿度が高く、汗ばむ日が増えてきました。これからの季節、シックデイの原因となる「脱水」を防ぐために欠かせないのが水分補給ですが、CKDの患者さんにとっては、この水分補給にも非常に大切な「コツ」と「注意点」があります。
世間では「熱中症予防のために、とにかくたくさんお水を飲みましょう!」「スポーツドリンクで塩分も補給しましょう!」とよく言われます。しかし、CKDの患者さんがこれをそのまま実行してしまうのは大変危険です。
1. 水分は「多すぎず、少なすぎず」が鉄則 腎臓の働きが低下していると、余分な水分を尿として体の外に追い出す力が弱まっています。そのため、水分を摂りすぎると体に水が溜まり、むくみが悪化したり、心臓に負担がかかって血圧が急上昇したりします。一方で、水分が少なすぎると今日お話しした「脱水からの急性腎障害」を引き起こします。 ご自身にとっての一日の「適量」は腎機能によって異なりますので、必ず主治医に確認してください。
2. 何を飲むか?「スポーツドリンク」には要注意! 夏場の水分補給として市販のスポーツドリンクをがぶ飲みするのは避けましょう。これらには、想像以上の「塩分」「糖分」、そして「カリウム」が含まれています。腎機能が低下している方にとって、過剰な塩分とカリウムは大きな負担になります。 日常的な水分補給には、水や、カリウムの少ない「麦茶」が最適です。
3. 飲み方のコツは「こまめに、少しずつ」 一度に大量の水を飲んでも、体はうまく吸収できません。コップ1杯(150〜200ml)程度の水や麦茶を、起床時、毎食時、入浴前後、就寝前など、1日のなかで7〜8回に分けて「こまめに」飲むのが理想的です。
4. 毎日の「体重測定」が一番のバロメーター 自分の水分量が適切かどうかを知る簡単な方法は、毎日同じ時間に体重を測ることです。数日で急激に体重が増えている場合は「水分の摂りすぎ(体に水が溜まっている)」、逆に急激に減っている場合は「脱水」のサインかもしれません。
体調が悪い時は、絶対に無理せず主治医に相談を!
体調を崩したとき、ぜひ一度立ち止まって考えてみてください。
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「血圧がいつもより低くてフラフラするのに、今日も降圧薬を飲む必要があるのかな?」
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「調子が悪くてご飯が全く食べられていないのに、いつも通り血糖降下薬を飲んで大丈夫?」
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「利尿薬を飲んでいるのに、おしっこが全然出ない…」
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「熱が出て水分も食事もとれないのに、普段通り全ての内服薬を継続する必要があるの?」
答えは「NO(ノー)」である可能性が高いです。少しでも迷ったとき、体調が優れないときは、自己判断で無理をしたり我慢したりせず、まずは主治医に相談してください。
お電話で状況をお伺いしてお薬の調整を指示することもあれば、早急に受診していただく必要がある場合もあります。脱水や急性腎障害の状態がひどい場合には、点滴などの治療のために入院が必要になるケースもあります。
「急性腎障害」は適切な治療で回復することも多いですが、厄介なことに腎臓に大きな「傷跡」を残してしまいます。 このダメージにより、将来的な腎機能の低下スピード(これを「eGFR slope(スロープ)」と呼びます※これは今度解説しますね!)が、1段階ステップダウンして悪化してしまう原因になります。一度失われた腎臓の余力は、完全には元に戻りません。
患者さんの体調や水分のバランスは、季節によっても大きく変わります。状態に合わせて適宜お薬を調整していくことも、私たちの大切な役割です。 こまったときはいつでも、当院へお気軽にご相談ください。あなたの腎臓を守るため、一緒に最善の対策をしていきましょう!
参考文献)
Kidney Int. 2024; 105: S117-S314.
