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高齢患者さんの在宅腹膜透析について

【ご家族・患者さんへ】

高齢者のための「体にやさしい」在宅透析 ── アシストPD(腹膜透析)のご案内

腎臓の働きが低下し、いよいよ透析などの治療が必要になったとき、特にご高齢の患者さんやご家族にとっては「これからどうなるのだろう」「通院はできるのだろうか」と多くのご不安があることと思います。
当クリニックでは、ご高齢の患者さんが住み慣れたご自宅で、できる限り苦痛を少なく、穏やかな生活を送るための選択肢として「アシストPD(訪問看護を活用した腹膜透析)」に力を入れています。
このページでは、ご高齢の患者さんにおける透析治療の現状と課題、そして新しい選択肢である「アシストPD」について詳しく解説いたします。

1. 腎代替療法とは

腎臓の働きが極端に低下した末期腎不全の状態になったとき、失われた腎臓の働きを代行する治療を「腎代替療法(じんだいたいりょうほう)」と呼びます。これには大きく分けて「血液透析」「腹膜透析」「腎移植」の3つの方法があります。

治療法 治療の場所 特徴と頻度 メリット デメリット
血液透析 (HD) 医療機関 週に3回、1回あたり約4時間通院して、機械で血液をきれいにする。 医療スタッフが全て管理するため安心感がある。 頻繁な通院が必要。急激に水分を引くため体への負担が大きい。
腹膜透析 (PD) 自宅 お腹の中(腹腔)に透析液を入れ、自分の腹膜を使って1日中ゆっくり老廃物を出す。 通院は月に1〜2回。体への負担(血圧の変動など)が少ない。 毎日自宅での処置が必要。お腹にチューブを入れる手術が必要。
腎移植 医療機関 他の人の健康な腎臓を手術で移植する。 健康な時に近い生活が送れる。 ドナー(提供者)が必要。免疫抑制剤を飲み続ける必要がある。

■ 日本の透析の現状と「腹膜透析」の割合

日本は世界でも有数の透析大国ですが、現在透析を受けている患者さんのうち、腹膜透析(PD)を選択されている方はわずか3%にとどまり、大多数の方が血液透析(HD)を受けています。しかし、ご高齢の方にとって、血液透析が常に最善の選択とは限りません。

■ 透析を「しない」という選択肢:CKM(保存的腎臓療法)

さらに、上記の3つの選択肢のどれにも当てはまらない、「あえて透析を行わない」という第4の選択肢として、CKM保存的腎臓療法:Conservative Kidney Management)があります。
CKMは、ご高齢で様々なご病気を抱えており、余命が限られている終末期に近い患者さんに対して、無理に透析で寿命を延ばすのではなく、痛みや苦しみを和らげるケア(緩和ケア)を中心に行い、自然な形での生活の質(QOL)を保つことを目的とした治療です。すべての方に当てはまるわけではなく、適応となる患者さんは限られますが、「透析をしない」ことも一つの医療的な選択肢として存在することを知っておくことは大切です。

2. 高齢腎不全患者さんの生命予後

透析治療を始めれば、必ずしも以前のように元気に長生きできるわけではありません。ご高齢の患者さん、特に80歳以上の方に透析を導入する場合、その生命予後(その後の見通し)については、ご本人もご家族も現実を正しく理解しておく必要があります。
日本の統計データを見ると、80歳以上の高齢腎不全患者さんが透析を開始した場合、約3割の方が1年以内にお亡くなりになっています。
さらに厳しい現実として、その亡くなられた3割の方のうち、約半分(全体の約15%)の患者さんは、透析を開始してわずか3ヶ月以内にお亡くなりになっているというデータがあります(下図)。
このグラフは横軸が年齢、縦軸が死亡率を示していますが、高齢になればなるほど透析開始後早期に亡くなる方が増えていることがわかると思います。そもそも男性の平均寿命は81歳、女性が87歳であることからして、天寿を全うしたと考えることもできるかもしれません。

ただ、血液透析という治療自体が体にとって大きな負担となるため、ご高齢で体力が低下している方の場合、透析を始めたことがきっかけで急激に状態が悪化してしまうケースも少なくありません。このように、高齢透析患者さんの予後は決して良いとは言えず、だからこそ「どのような治療の形がご本人にとって一番幸せか」を慎重に考える必要があります。

3. 日本における高齢者透析の問題点

現在、日本の透析医療の中心は施設に通う「血液透析」ですが、ご高齢の患者さんにとっては以下のような大きな問題点や負担が指摘されています。

■ 通院の限界(サルコペニア・フレイル・認知症の進行)

血液透析は「週3回、決まった時間にクリニックに通う」必要があります。透析を始めた当初はご自身で通院できても、加齢とともに筋肉量が減少する「サルコペニア」や、心身の活力が低下する「フレイル(虚弱)」が進行すると、通院そのものが非常につらい作業になります。また、認知症が進行した場合には、長時間の透析中に安静を保つことが難しくなることもあります。やがてご家族の送迎負担や、介護タクシーなどの経済的負担も重くのしかかってきます。

■ 急激な循環動態の変化による合併症とADL(日常生活動作)の低下

血液透析は、2日〜3日かけて体に溜まった大量の水分や老廃物を、わずか4時間という短時間で一気に引き出します。この急激な変化は「循環動態(血圧や心臓・血管への負担)」に多大なストレスを与えます。
ご高齢の血管は脆くなっているため、透析中に急激に血圧が下がる「クラッシュ」と呼ばれる状態になったり、血流が悪くなることで脳梗塞を引き起こすリスクが高まります。このような合併症が起きると、歩行や食事などのADL(日常生活動作)がガクッと落ちてしまい、そのまま寝たきりになってしまうことも少なくありません。

■ 体にやさしい「腹膜透析(PD)」のメリット

これに対し、腹膜透析(PD)は24時間かけてゆっくりと水分や老廃物を体の外へ出すため、心臓や血管への負担が非常に少ないのが大きな特徴です。急激な血圧低下などが起きにくいため、残された体力を奪うことなく、体に負担をかけずに透析を行うことができます。

4. 緩和的な腹膜透析「アシストPD」とは

体に負担の少ない腹膜透析(PD)ですが、これまで普及が進まなかった理由の一つに「毎日、自宅での透析液の交換処置を誰がやるのか」という問題がありました。患者さんご自身で行うのが難しい場合、その負担はすべて同居するご家族に重くのしかかっていました。
そこで現在、当クリニックが推奨しているのが訪問看護を活用した腹膜透析です。
アシストPDとは、その名の通り「介助(アシスト)を受けながら行う腹膜透析」のことです。本来のアシストPDは家族などの近しい方が本人に代わって行う透析とされてきましたが、ご家族が抱えていた処置の負担を、「訪問看護師」に任せることができます。
訪問看護ステーションと密接に連携することで、毎日の透析液の交換(バッグ交換)や、お腹の出口部分の消毒などを看護師がご自宅に訪問して行います。専用の機械(APD)を夜間に回すセットなども看護師が行うため、患者さんご本人やご家族は、複雑な医療処置の手技を一切覚えたり行ったりする必要がありません。
ご家族の介護負担を劇的に減らしつつ、ご自宅で安全に腹膜透析を続けることができる画期的な仕組みです。

5. 対象になる患者さん

この「アシストPD」は、お仕事をしながら自分で処置を行うような「従来の自立した若い患者さん向けの腹膜透析」とは対象が大きく異なります。
主な対象となるのは、以下のような患者さんです。

  • ご高齢で体力が低下しており、ご自宅で療養されている方
  • 週3回の血液透析クリニックへの通院が、体力的に(またはご家族の送迎の都合で)困難になってきた方
  • 認知症などがあり、ご自身での医療処置の管理が難しい方
  • 現在「血液透析」を受けているが、血圧低下などで体への負担が大きく、透析を続けるのが辛くなってきた方(※血液透析から腹膜透析への移行も可能です)

あくまで「通院が難しく、ご自宅での生活を中心としたいご高齢の腎不全患者さん」が対象となります。

6. 在宅での腹膜透析(アシストPD)にむけて

ご高齢の方に行う「アシストPD」は、若い方が社会復帰を目指して行う通常の腹膜透析とは意味合いが異なります。
私たちはこれを「緩和的な要素が強い透析」と位置づけています。
これは、無理をして寿命を延ばすことだけを目的とするのではなく、「尿毒症による吐き気や息苦しさ、体のむくみといった辛い症状を取り除き、住み慣れたご自宅で、ご家族と一緒に穏やかな時間を少しでも長く過ごしていただくため」の治療です。痛みを和らげ、生活の質(QOL)を保つための「緩和ケア」の一つとして、体に負担の少ない腹膜透析を利用するという考え方です。
当クリニックでは、患者さんがご自宅で安心してこの緩和的なアシストPDを受けられるよう、地域の訪問看護ステーションやケアマネジャーと強固に連携し、医師による「訪問診療(往診)」によってしっかりとサポートを行う体制を整えております。
「通院ができなくなったらどうしよう」「透析で苦しい思いをさせたくない」とお悩みのご家族や患者さんは、決して抱え込まず、まずは一度当クリニックにご相談ください。患者さんらしい穏やかな生活を守るための最善の方法を、一緒に考えていきましょう。

引用文献
Yazawa, M, et al. PLoS One 2016. 7; 11(6): e0156951.

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