動悸について
動悸の定義と症状
動悸とは、ご自身の心臓の拍動(心拍)を不快に、あるいは強く意識する状態を指します。普段、私たちは心臓が動いていることを意識しませんが、何らかの原因でその動きが気になってしまうのが「動悸」です。
患者さんによって感じ方は様々で、以下のような言葉で表現されることが多いです。
- ドキドキする:心臓が速く、力強く打っている感じ。運動後のような感覚。
- ドクン、ドクンと大きく打つ:一拍一拍が大きく、脈が飛ぶような感じ。
- トトトッ…と脈が乱れる:心臓が空打ちする、リズムがバラバラになる感じ。
- 胸が詰まるような感じ、喉元で心臓が動いている感じ
これらの症状が、安静にしている時や、ふとした瞬間に突然現れると、強い不安を感じることがあります。
動悸のときに考えられる疾患
動悸の原因は、心臓の病気だけでなく、様々な体の状態や心の状態が関係しています。必ずしも重い病気とは限りませんが、中には注意が必要なものもあります。
1. 心配の少ない動悸
生理的なもの
激しい運動、緊張、興奮、ストレスなど、誰にでも起こりうる自然な反応です。
嗜好品によるもの
コーヒーや緑茶に含まれるカフェイン、アルコール、タバコのニコチンなどが心臓を刺激して動悸を起こすことがあります。
自律神経の乱れ
ストレス、疲労、睡眠不足、更年期障害などで自律神経のバランスが崩れると、心拍のコントロールがうまくいかなくなり、動悸を感じやすくなります。
2. 治療が必要となる可能性のある疾患
不整脈
動悸の最も代表的な原因です。脈が速くなる「頻脈性不整脈」、遅くなる「徐脈性不整脈」、脈が飛ぶ「期外収縮」など、様々な種類があります。多くは心配いりませんが、心房細動や心室頻拍など、脳梗塞や突然死につながる危険な不整脈も隠れていることがあります。
心臓の病気
心不全、心臓弁膜症、心筋症など、心臓自体の機能や構造に問題がある場合、それを補うために心臓が過剰に働き、動悸として感じることがあります。狭心症や心筋梗塞でも動悸を伴うことがあります。
心臓以外の体の病気
- 甲状腺機能亢進症(バセドウ病など):甲状腺ホルモンが過剰に分泌されると、全身の代謝が活発になり、心臓も常に興奮状態となって動悸が起こります。
- 貧血:血液中の酸素を運ぶヘモグロビンが不足すると、体は酸素不足を補おうと心臓をたくさん動かすため、動悸を感じます。
- 発熱:体温が上がると、体は熱を逃がそうとして心拍数が上がります。
- 低血糖:血糖値が極端に下がった際に、体を危険から守ろうとする反応で動悸が起こることがあります。
心の病気
パニック障害や不安障害では、強い不安感とともに激しい動悸や息苦しさを感じることがあります。
動悸の治療目標
動悸治療の目標は、まず「命に関わる危険な状態でないかを見極めること」です。その上で、以下のことを目指します。
不快な症状の緩和
動悸そのものを抑え、ドキドキする不快感や不安を和らげます。
原因となっている病気の治療
不整脈、心臓病、甲状腺の病気など、根本的な原因を治療します。
重大な病気(脳梗塞や心不全など)の予防
危険な不整脈(心房細動など)が原因の場合、将来起こりうる合併症を予防するための治療を行います。
安心感の提供
検査によって「心配ない動悸」であることが分かれば、それだけで不安が解消され、症状が軽くなることも少なくありません。安心して日常生活を送れるようにすることが、大切な治療目標です。
動悸の治療の実際
原因によって治療法は大きく異なります。
1. 生活習慣の改善
心配のない動悸や、自律神経の乱れが主な原因の場合に行われます。
原因となるものの回避
カフェイン、アルコール、喫煙を控える。
ストレス管理
十分な睡眠、リラックスできる時間を作る、適度な運動を心がける。
2. お薬による治療(薬物療法)
抗不整脈薬
不整脈を直接抑えるお薬です。
β遮断薬(ベータしゃだんやく)
心臓の過剰な興奮を鎮め、脈をゆっくりにする作用があります。不整脈だけでなく、不安や緊張による動悸にも効果的です。
抗不安薬
精神的な不安が強い場合に用いられます。
抗凝固薬(血液をサラサラにする薬)
心房細動など、血の塊(血栓)ができやすい不整脈の場合に、脳梗塞を予防するために用います。
3. カテーテルアブレーション
不整脈の原因となっている心臓内の異常な電気回路を、カテーテル(細い管)を使って焼き切る治療法です。お薬が効かない場合や、根治を目指したい場合に行われます。
4. 原因疾患の治療
貧血には鉄剤の補充、甲状腺の病気にはホルモンを調整するお薬など、それぞれの原因に対する専門的な治療を行います。
動悸になったらどうする?
動悸を感じたら、まずは落ち着いて行動することが大切です。
1. まずは慌てずに、自分で脈を確認する
手首の親指の付け根あたりに反対側の指を当て、脈拍を測ってみましょう。
- リズムは規則正しいか? バラバラか?
- 1分間におおよそ何回打っているか?(100回以上なら頻脈の可能性)
この情報は、医師に症状を伝える上で非常に役立ちます。
2. こんな時はすぐに医療機関へ
以下の症状を伴う動悸は、危険なサインかもしれません。我慢せず、救急外来を受診するか、救急車を呼ぶことを検討してください。
- 胸の痛み、圧迫感、締め付けられる感じ
- 息苦しさ、呼吸困難
- めまい、ふらつき、気が遠くなる感じ
- 意識を失う(失神)
3. 症状が落ち着いていても、一度は受診を
上記の危険な症状がなくても、これまでにない動悸を自覚した場合や、動悸を繰り返す場合は、一度、循環器内科やかかりつけ医に相談しましょう。
「いつから」「どんな時に」「どのくらい続く」「どんな感じの動悸か」をメモしておくと、診察がスムーズに進みます。
動悸は体からの大切なサインです。正しく原因を知って対処することで、大きな安心につながります。どうぞお一人で抱え込まず、医療機関にご相談ください。
