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便秘について

便秘は、年齢や性別を問わず多くの人々が経験する、非常に身近な消化器症状の一つです。単に「お通じがない」という不快感だけでなく、腹痛や食欲不振、肌荒れ、さらには精神的なストレスにもつながり、私たちの生活の質(QOL)を著しく低下させる可能性があります。多くの人が市販薬で対処したり、体質だからと諦めてしまったりしがちですが、便秘の背景には様々な原因が隠れており、時には重大な病気のサインであることもあります。

便秘の定義について

一般的に「便秘」というと、「何日間も便が出ない状態」を想像する方が多いかもしれません。しかし、医学的な定義はそれほど単純ではありません。

日本内科学会では、便秘を「本来体外へ排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」と定義しています。この定義の重要な点は、単なる排便回数の減少だけを問題にしているわけではないということです。

具体的には、以下のような状態が一つでも当てはまれば、便秘と診断される可能性があります。

排便回数の減少

週に3回未満しか排便がない。

排便困難感

  • 排便時に強くいきむ必要がある。
  • 便が硬くて出しにくい(兎の糞のようなコロコロした便、または硬い塊の便)。
  • 排便後も便が残っている感じがする(残便感)。
  • 肛門に何かが詰まっているような閉塞感がある。
  • 手を使って便をかき出すなどの処置が必要なことがある。

これらの症状が6ヶ月以上前から存在し、最近3ヶ月間、上記の基準を満たしている場合に「慢性便秘症」と診断されます。つまり、毎日排便があっても、強くいきまなければならなかったり、残便感があったりすれば、それは「便秘」なのです。

便秘の原因について

便秘の原因は非常に多岐にわたり、大きく「機能性便秘」と「器質性便秘」の二つに分類されます。

1. 機能性便秘

大腸の働き(蠕動運動や便意の伝達)に問題が生じることで起こる便秘で、ほとんどの慢性便秘がこれに該当します。生活習慣やストレス、加齢などが深く関わっており、さらに3つのタイプに分けられます。

弛緩性(しかんせい)便秘
  • 原因: 大腸全体の蠕動運動が低下し、便を肛門まで送り出す力が弱まることで起こります。運動不足、水分不足、食物繊維の摂取不足、加齢による腹筋力の低下などが主な原因です。特に高齢者や、出産を経験した女性、寝たきりの方によく見られます。
  • 特徴: お腹が張る、残便感があるといった症状が出やすいです。
痙攣性(けいれんせい)便秘
  • 原因: 主に精神的なストレスによって自律神経のバランスが乱れ、大腸が過度に緊張してしまい、便の輸送がスムーズに行われなくなることで起こります。過敏性腸症候群(IBS)の便秘型もこれに含まれます。
  • 特徴: 食後に下腹部痛を感じたり、便秘と下痢を繰り返したりすることがあります。便はウサギの糞のようにコロコロと硬くなる傾向があります。
直腸性便秘
  • 原因: 便が直腸まで運ばれてきているにもかかわらず、便意が脳にうまく伝わらない、あるいは便意を日常的に我慢することで、直腸の反射が鈍くなってしまうために起こります。高齢者や、痔の痛みを恐れて排便を我慢する人、多忙でトイレに行くタイミングを逃しがちな人に多く見られます。
  • 特徴: 便意を感じにくく、いきんでも便が出にくい状態です。

2. 器質性便秘

腸管そのものに物理的な原因(病気や癒着など)があり、便の通過が妨げられることで起こる便秘です。

主な原因疾患

大腸がん、大腸ポリープ、炎症性腸疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎)、腸管の癒着、直腸瘤など。

注意点

急に便秘になった、便に血が混じる、激しい腹痛や嘔吐を伴う、体重が急激に減少した、などの症状がある場合は、器質性便秘の可能性が疑われるため、速やかに医療機関を受診する必要があります。

3. その他の原因

薬剤性便秘

特定の薬の副作用として便秘が起こることがあります。例として、一部の抗うつ薬、抗コリン薬、オピオイド系鎮痛薬、パーキンソン病治療薬、咳止め、カルシウム拮抗薬(降圧薬)などが挙げられます。

全身性疾患に伴う便秘

甲状腺機能低下症、糖尿病、パーキンソン病、多発性硬化症などの病気が原因で、腸の動きが悪くなることがあります。

女性ホルモンの影響

女性は月経前や妊娠中に、黄体ホルモン(プロゲステロン)の分泌量が増加します。このホルモンには大腸の蠕動運動を抑制する働きがあるため、便秘になりやすくなります。

便秘の症状について

便秘の症状は、お腹に関するものだけでなく、全身に及ぶことがあります。

腹部の症状

  • 排便回数の減少
  • 硬くて小さい便
  • 排便時の過度ないきみ
  • 残便感
  • 腹部膨満感(お腹の張り)
  • 腹痛、不快感

全身の症状

  • 食欲不振、吐き気
  • 肌荒れ、ニキビ、吹き出物
  • 頭痛、肩こり
  • イライラ、集中力の低下
  • 疲労感、倦怠感

これらの症状は、腸内に溜まった便から発生する有害物質が血液中に吸収され、全身を巡ることが一因と考えられています。

便秘の合併症について

便秘を長期間放置すると、様々な合併症を引き起こすリスクが高まります。

肛門疾患

硬い便を無理に排出しようとすることで肛門が傷つき、裂肛(きれ痔)や痔核(いぼ痔)の原因となります。

糞便塞栓(ふんべんそくせん)・腸閉塞(イレウス)

便が腸内でカチカチに硬くなり、完全に詰まってしまう状態です。激しい腹痛、嘔吐、腹部の膨満などが起こり、緊急の処置が必要となる重篤な状態です。

巨大結腸症

慢性的な便秘により大腸が拡張し、蠕動運動がさらに低下するという悪循環に陥ります。

虚血性大腸炎

腸管内圧の上昇により、大腸の血流が悪化し、炎症や壊死を引き起こすことがあります。突然の腹痛と血便が特徴です。

QOL(生活の質)の低下

腹部の不快感や痛みは、仕事や学業への集中力を妨げ、精神的なストレスや抑うつ状態につながることも報告されています。

便秘の検査について

便秘の原因を正確に特定し、適切な治療法を選択するために、医療機関では以下のような検査が行われます。

1. 問診

最も重要な情報源です。いつから便秘か、便の形状や頻度、食事や運動などの生活習慣、既往歴、服用中の薬、排便時の状況などを詳しく医師に伝えます。

2. 身体診察

腹部の聴診で腸の音を確認したり、触診で便の溜まり具合や痛みの場所を調べたりします。肛門から指を挿入する直腸診も、直腸内の便の有無や痔の状態、腫瘍の有無などを確認するために重要です。

3. 血液検査

貧血の有無や炎症反応を調べるほか、甲状腺機能低下症や電解質異常など、便秘の原因となる全身性疾患がないかを確認します。

4. 画像検査

腹部X線(レントゲン)検査

腸内の便の量やガスの分布を視覚的に確認し、便秘の程度を客観的に評価します。

大腸内視鏡検査(大腸カメラ)

肛門から内視鏡を挿入し、大腸の内部を直接観察する検査です。大腸がんやポリープ、炎症など、器質的な病気の有無を調べる上で最も確実な方法です。特に、40歳以上で初めて便秘になった、急に便秘が悪化した、血便があるといった場合には必須の検査となります。

5. 専門的な検査

大腸通過時間検査

放射線不透過マーカーが入ったカプセルを服用し、数日後にX線撮影をして、マーカーが体外に排出されるまでの時間を測定します。大腸の輸送能力を評価できます。

注腸造影検査

バリウムと空気を肛門から注入し、大腸の形状や狭窄の有無をX線で詳しく調べます。

便秘の治療法について

便秘の治療は、「非薬物療法(生活習慣の改善)」と「薬物療法」が二本柱となります。まずは生活習慣を見直し、それでも改善しない場合に薬の使用を検討するのが基本です。

1. 非薬物療法(生活習慣の改善)

予防法とも重なりますが、治療の第一歩です。

食事療法

1日3食を規則正しく食べ、食物繊維(水溶性と不溶性をバランス良く)と十分な水分(1日5~2リットルが目安)を摂取します。

運動療法

ウォーキングや軽いジョギングなどの有酸素運動は、全身の血行を促進し、腸の動きを活発にします。腹筋を鍛えることも排便時のいきむ力を助けます。

排便習慣の確立

朝食後など、毎日決まった時間にトイレに行く習慣をつけましょう。便意がなくても数分間座ることで、体が排便リズムを学習します。そして、便意を感じたら我慢せずにトイレに行くことが非常に重要です。

2. 薬物療法

医師の指導のもと、個々の便秘のタイプや症状に合わせて薬を選択します。近年、新しい作用機序を持つ薬が登場し、治療の選択肢が広がっています。

浸透圧性下剤

腸管内の水分量を増やして便を軟らかくし、排出しやすくします。

  • 塩類下剤(酸化マグネシウムなど): 古くから使われている代表的な薬です。効果が高い一方、高齢者や腎機能が低下している方は高マグネシウム血症に注意が必要です。
  • 糖類下剤(ラクツロースなど): 安全性が高く、小児や妊婦にも使用されます。
上皮機能変容薬(分泌促進薬)

小腸の粘膜に作用して腸液の分泌を促し、便を軟らかくします。

  • ルビプロストン、リナクロチド、エロビキシバットなど、新しいタイプの薬です。腹痛や下痢などの副作用に注意が必要ですが、従来の薬で効果が不十分だった場合に有効なことがあります。
刺激性下剤

大腸の粘膜を直接刺激して蠕動運動を強制的に起こさせます。

  • センナ、ピコスルファートナトリウム、ビサコジルなど。市販薬の多くがこれに該当します。即効性がありますが、連用すると腸が刺激に慣れてしまい、効果が弱まったり(耐性)、薬なしでは排便できなくなったりすることがあるため、原則として頓用(一時的な使用)に留めるべきとされています。
漢方薬

大建中湯、麻子仁丸、潤腸湯など、個人の体質(証)に合わせて様々な処方が用いられます。

便秘の予防法について

便秘は治療も大切ですが、日々の生活習慣によって予防することが最も理想的です。

1. バランスの取れた食事

食物繊維を豊富に

食物繊維には、便の量を増やして腸を刺激する「不溶性食物繊維」(穀物、豆類、きのこ類、根菜類)と、便を軟らかくする「水溶性食物繊維」(海藻類、果物、こんにゃく)があります。両方をバランス良く摂ることが重要です。

十分な水分補給

水分が不足すると便が硬くなります。こまめに水分を摂る習慣をつけましょう。特に朝起きてすぐにコップ一杯の水を飲むと、腸が刺激されて動き始めやすくなります。

腸内環境を整える

ヨーグルトや納豆、味噌などの発酵食品や、オリゴ糖を多く含む食品(玉ねぎ、ごぼう、バナナなど)は、善玉菌を増やして腸内環境を整える助けになります。

2. 適度な運動習慣

  • 定期的な運動は、血行を促進し、自律神経のバランスを整え、大腸の蠕動運動を活発にします。1日20~30分程度のウォーキングから始めてみましょう。
  • 腹筋運動や体幹トレーニングは、排便時にいきむ力を高めます。
  • お腹を「の」の字にマッサージすることも、腸への適度な刺激となります。

3. 規則正しい生活リズム

排便習慣の定着

毎日決まった時間にトイレに行く習慣をつけ、便意を育むことが大切です。特に、朝食後は胃・結腸反射が起こりやすく、最も排便に適した時間帯とされています。

便意を我慢しない

便意は自然な体のサインです。我慢を繰り返すと、直腸のセンサーが鈍くなり、便意を感じにくくなってしまいます。

ストレス管理と十分な睡眠

ストレスや睡眠不足は自律神経を乱し、腸の働きに悪影響を及ぼします。リラックスできる時間を作り、質の良い睡眠を心がけましょう。

 

便秘は多くの人が悩む症状ですが、その裏には様々な原因が隠されています。安易に自己判断せず、症状が続く場合や気になるサインがある場合は、ぜひ一度、消化器内科や胃腸科などの専門医に相談してください。正しい知識を持ち、適切な対策を講じることで、快適な毎日を取り戻すことは十分に可能です。

この記事の執筆者

三鷹あまの内科・腎クリニック
院長 天野博明

経歴

  • 2011年3月 埼玉医科大学医学部医学科卒業
  • 2011年4月 埼玉医科大学国際医療センター 初期臨床研修
  • 2013年4月 埼玉医科大学病院腎臓内科 助教
  • 2024年8月 埼玉医科大学病院腎臓内科 講師 
  • 2026年4月 三鷹あまの内科・腎クリニック開業

資格

  • 医学博士
  • 日本内科学会総合内科専門医・指導医
  • 日本腎臓学会専門医・指導医
  • 日本透析医学会専門医・指導医
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